すっぽん(川千鳥)
地歌・作物
作者不詳
三絃:本調子
頃は五月の梅雨晴れに、池の浮き木の下辺り、数多のすっぽん寄り集まり、
ぶつぶつ泡吹き、あるいはじゃぶじゃぶ、面を出して世をにらみ、水を濁して遊びけり、
中にも執心深そうなすっぽん出て申すよう、
近年世上の人々は、我々を食い囃し、彼処の川端、此処の橋下、新地新地の里はずれ、
また市中には万寿寺、三条通や丸太町、丸のまの字も恐ろしや、ころ入り、切り込み、刻みネギ。
鍋の苦言も逃れまじと、涙は淵の水増さる、その子のすっぽん申す様、愚かの父の嘆きやな、
それ魚は人に食われて成仏す、まして鱗のなき我々、水の藻屑とならんより、人に食われて西の丘、畑の肥ぞありがたや
(手事)
斯くて諌めのその内に、久しぶりにてお月さん、競べ給うも恥ずかしと、皆水底に入りにけり。